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タイトルどおり、pixivなどで書いたざくアクSSの保管場所です。 内容に差異はありませんが、ショートショートにまとめられていた話などは細かく分けられています。
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ローズマリーとヤエちゃん。
ハグレ大祭りのその後。ここの回想録の次元ポータル編だけヤエちゃんが書いているので、その顛末。

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「ふう……」

 執筆が一段落して、息をつく。それから、凝り固まった体を背伸びしてほぐしていく。私にとっては、いつもの習慣――だけれど、ここのところの内容は、いつにも増して熱が入っていたような気がする。

 ハグレ王国にとって、ターニングポイントとなるであろう出来事。
 次元ポータル、そしてハグレ大祭り。

 東の世界中への訪問前にシノブさんが持ってきた話。
 今思い返すと、手こそ出さなかったものの、あまりにも乱暴な怒りをぶちまけてしまったと自覚する。せっかくここまで築いてきたものが崩れ去るかもしれないという恐怖を前に、少しも冷静でいることができなかった。
 そして具体的に手を打つことはできないままに、次元ポータルの完成が周知されていく。王国参謀としては、積極的に関わらないけれど出ていく者は止めない、という方針を打ち出すのが精一杯だった。

 ――そう思っていたら、デーリッチとヅッチー、二人の子供からの、まさかのサプライズ。次元ポータルの運営期間に合わせて、大きな祭りを開催しようと言うのだ。
 今この世界に生きている人々に、もっと世界を好きになってもらうために――おそらくデーリッチは『次元ポータルに対抗しよう』という意図よりは、ただ純粋に『この世界を好きになってもらう』という想いを突き詰めて、お祭りの企画を立ち上げたのだろう。

 結果として、次元ポータルの利用者は想定よりも随分と少なかったらしい。
 私としては、お祭りを通して、この世界を改めて好きになってくれた人、見直してくれた人、チャンスをくれた人が多かったのだろうかと想像している。そうして、この世界自体がもっともっと良くなっていけばいいと、希望を抱いて。

 と、物思いにふけっていた時、扉のノックの音が聞こえた。



「入っていいかしら?」



 この声は……ヤエちゃんかな?
 夜も遅いこのタイミングでわざわざ私の部屋を訪ねてくるなんて、珍しいこともあるものだ。とはいえ、特に拒む理由もないので、どうぞと返事をした。
 静かに扉が開いて、客人が入ってくる。

 ヤエちゃんはいつものサイキッカースーツではなく、外でも室内でも通用するようなパーカー姿だった。アンテナも付いていないし、目も塞いでいない。

「……完全にオフモードだね。いいのかい?」
「まあ、時間が時間だから、いつもの格好やテンションだと逆に、というか完全に失礼だと思ってね」

 苦笑しつつも、なるほど確かにと頷く。繰り返すが、わざわざ夜遅くに私を訪ねてくるとなると、真面目な用事があるのだろう。

「いつも、回想録書いてるわよね? ちょっとノウハウを教えてもらおうかな、と思って」
「うーん、ノウハウって言っても……私自身の心情を交えつつ、ありのままに書いてるだけだからなぁ。そんなに捻ったことをしてるわけじゃないよ?」
「あー、まあ、そうよね。でも、今までの回想録を全部書いてきてるあなただから、何か参考になる話でも聞けないかと思って」
「ん、というかヤエちゃん、書きたいのかい?」

 書きたいのだろうか――多分、私を訪ねたそもそもの理由だ。
 頷きが返ってきた。

「ちょっとね。次元ポータルで見てきたことを、書き残しておきたくて」

 その言葉で、はっと気がついた――もしかすると、私は次元ポータルを敵視しすぎていたかもしれない。雪乃とヤエちゃんが次元ポータルから戻ってきた時はすごくほっとしたし、ヤエちゃんが連れ戻してきてくれたものだと思ってとても感謝した記憶があるけれど。
 そんな私の心情を見通すように、ヤエちゃんは口を開く。

「お祭りも相当盛り上がってたみたいだけど、次元ポータルも……シノブも、すごく頑張ってたのよ。それに、雪乃だって自分で悩んで、すごく考えて、その末に結論を出した」

 その言葉を、真剣に受け止める。

「……そのことを、私の記憶に留めておくだけじゃ、勿体無いもの。ちゃんと、形にして残しておかなくちゃいけない」

 そう語るヤエちゃんの表情は――どう言っていいのかわからないけれど、きっと私は一生忘れられないだろう。



 書く前に、しっかり話を聞かせてくれないかとお願いをした。
 ヤエちゃんはさらりと応じてくれて、次元ポータルで見てきたことを話してくれた。出来事そのものは彼女がこの後書くであろう回想録で振り返るとして――

 改めて、考えた。

 まず、ひとつ。
 雪乃が元の世界に戻って家族に会えたことについては、シノブさんに大きな感謝をしなければいけないこと。ハグレ王国と対立する格好にはなったとしても、彼女が居なければ成し得なかったことは、疑いようもない。

 ふたつ。
 私がハグレ王国を大事に想っているのに負けないくらい、シノブさんの次元ポータルにかける想いも強かったのだということ。ヤエちゃんの申し出を拒否してまで、たった一人で、身を削って、ポータルを成立させる――生半可な気持ちで出来ることではないだろう。
 相容れない故に対立はしてしまったけれど、それでも以前に乱暴な怒りをぶつけてしまったことを、申し訳ないと思った。

 みっつ。
 私達とシノブさんとで形は違えど、ハグレを救いたいという気持ちの強さだけは共通していること。それゆえに、もしかしたらもう少し遠い将来には、ハグレ王国が次元ポータルを支援するなんてことも、ありえるかもしれない。



「……ありがとう、ヤエちゃん。聞いてよかったよ」
「どういたしまして。……いつか、ハグレ王国とシノブの道も、交わる時が来るんじゃないかしら」
「それは、予知かい?」
「いいえ? ただの人並みの予感ってやつね」

 やりとりをしていると、思う。
 真剣な時のヤエちゃんは、いつもとは裏腹に、芯が通っていてとてもクールで、私なんかではとても敵わないような気がする――会ったばかりの雪乃を説得するときも、それに近い印象を抱いたことを思い出す。

「――よしてよ。そこまで大層な人間じゃないわ、私は。スプーンの売れ行きにいつも頭を悩ませてるんだから」
「……真面目な商売をしたら、ヤエちゃんなら一流の成果くらい出せそうなものだけどなあ」
「いやちょっと、スプーン販売は真面目じゃないってか?」
「あ、ごめん、ごめんなさい……」

 失言を謝りつつも、笑ってしまった。
 クールな姿は格好いいけれど、やっぱりいつものふざけている姿も合わせてこそのヤエちゃんなのだ。ギャップがあるから余計輝いて見える、というやつだろうか。



「……長話になってしまったね。夜もだいぶ遅いし、どうする? 今からでも書くかい?」
「うーん、確かに書きにきたわけだけど。ローズマリーは大丈夫なの? 眠くない?」
「まあ、気にしなくていいよ。何が出来上がるのか、正直に言って楽しみだからね」
「そう? じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわ」

 そうして、ヤエちゃんが机に向かい、ペンを握ってノートを広げる。
 私は傍らで、それを見守っていた。
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ざくざくアクターズというフリーゲームの二次創作をやっています。ネタが思いつくかどうかは気まぐれなので不定期更新。
主な活動場所はpixivで、この場所はあくまでも保管庫として活用しています。
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