イリス、メニャーニャ、エステル。
ショートショート４本立てですが、今回は小題はありません。
百合要素とR-18要素を含みますので注意。

「……私達、今日、振られた者同士、だよね？」
「ユーシー。そんでデートと洒落込んでるわけダ」
「うん。……で、なんで私は今、宿屋でイリスに押し倒されてるの？」
「私がユーを味見してみたくなったからだヨ、エステル」
「なるほどー……ってちょっと待てぇ！？」
「ワイノット？」
「じゃねえよ！！　私とあんた、メニャーニャを取り合ってる最中だろ！？　ライバルに手ぇ出すとかどんだけ節操ないんだよ！？」
「別に。私は私のデザイアに忠実なだけネ――それに」
「ちょ、顔近い……な、なによ……」



「本気で私からメニャーニャを取り返したいってんなら、オマエも少しはこういうのを知っておいたほうがいいんじゃないカ？」



「んぐっ……！」
「見たところ、オマエは経験なんて無いだろうからナァ。教えてやってもいいんダゼ？」
「…………っ」
「…………」
「……いや、駄目だ。私はメニャーニャにそんなことをするつもりは、無い」
「リアリィ？」
「あんたからしたら、メニャーニャとそういう行為をしたのは決して遊びじゃなかったんだろうけど――私がするのは、不誠実だ」
「……フーム」
「私は私のやり方で、あんたから取り返す。こんな方法じゃないやり方でね」
「……オーケー。じゃ、止めとこう」
「……あっさり引き下がったわね。図ったな？」
「さあナ、別にどっちでもよかったんダゼ。行為に及ぶならそれで良し、ちゃんと悩んで考えた上で拒否したんならそれもまた良し、ダヨ」
「掌で踊らされてるみたいだな、腹立つわぁ……」
「そういう血気盛んなのは、嫌いじゃないゼー」

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「――オマエの魂は、私のものダ」

「――はい。私の魂は、イリス様。あなたのものです」

「オマエは死後、私のもとで死神として働いてもらう」

「はい。私はあなたを主とし、従います」

「この契約からは、逃れられない。私はオマエを離さない」

「はい。私の魂は、あなたの腕に、永久に抱かれましょう」





「……なーんて、ナ」

「……改めて口にするとすごく恥ずかしいですね、これ」

「その割には堂々と言い切ったナ……自分の口で、私に従う、などと。しかも、永久にときた」

「堂々としなかったら、まるで私が嫌々従ってるみたいじゃないですか」

「無理矢理犯して堕としたようなモンだが……いいのカイ？」

「くどい。わざわざ揺らがせたいんですか」

「クク、ソーリー。バット……契約自体、主従関係のはっきりしたものではあるんだが……」

「……なんです？」

「イヤ。実のところ、態度くらいは対等であってほしい、と思ってナ」

「対等……ですか？」

「イエス。私はオマエの、必要とあらば立場が上の人間も強気に脅せる度胸も買っているんでナ」

「……それはもしかして、ウソウの森の撤退戦の時の……」

「ド派手な啖呵切ったって有名だゾ？」

「……それが通用する相手だったからですよ。イリスさん、あなたはまた別です」

「バット、相手が私だからといって萎縮されちゃ困る。まして、オマエと私じゃ価値観が対極ダ――私は悪意、オマエは優しさっていう風にナ」

「……それでよく私をスカウトしようと思いましたね？」

「対極だからこそ、ダヨ。言いなりの従者は面白くナイ。ガチ喧嘩できるくらいがちょうどいいのサ」

「……風変わりですね」

「私に普通を求めるナヨ。ま、そんなわけで、よろしく頼むゼ、メニャーニャ」

「……はいはい」

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「……とんだマッドサイエンティストの発想ダナ……」
「懸けるのは自分の命ですから、問題ありません」
「まさか自分をキャンディにして口の中で転がしてみろ、とはナ……私がちょっと間違ったら、噛み砕かれたり飲み込まれたりして、私の胃の中でジ・エンドだぜ、ユー？」
「構いません。構うようだったらこんなこと頼みませんから」
「断言カヨ……さすがの私でも良心が痛むが……いや、本当に良心持つ者だったら断固拒否してんだろうナ……」
「そもそも良心なんて持ち合わせてたんですか」
「少なくともユーに対してはナ。あの契約は、私がオマエを守る義務も含まれているからナ」
「なるほど。では今だけはその義務を放棄していただきたいですね」
「……ヤレヤレ、引く気はネェンダナ……アイシー。覚悟を決めナ」
「はい。お願いします」

「……その前に服を脱げヨ。身につけているものは全部外せ。キャンディにしてから元に戻った時に服までボロボロだったら困るダロ」
「……わかりました。少しお待ちください」

「――前も思ったが、細い体ダナ、ユー」
「イリスさんのように恵まれてはいないもので」
「皮肉言うなヨー。……さて、じゃあヤルゾ」
「はい」



「ゲッツ・キャンディ！」



******



　――丸い飴玉になった。
　喋ることはできないけれど、世界は見える。意識もある。
　見上げたはるか先に、イリスさんの表情がある。普段ならこの後、意地の悪い笑みでも浮かべながら踏み潰すのだろう。
　今日は代わりに、二本の指でそっとつままれる。そのまま彼女の口元まで、あっという間に近づけられる。

「メニャーニャ、聞こえるか？　……ま、返事は出来ないだろうケドサ。ユーは今から私の口の中だ」

　――聞こえています。
　おそらくは私に覚悟を決めさせるため……と同時に、イリスさんも心の準備をしているところなのだろう。
　改めて『行くぞ』と声をかけられた後――私は彼女の口の中に放り込まれた。



　柔らかく、ぬめった舌の上で転がる私。
　ゆっくりとねぶられる――たったそれだけで、途端に意識が蕩け始めた。

　キャンディが溶けていく――私の意識も蕩けていく――

　果たして私は――どうなっているのだろうか――蕩けて――途切れる――



******



　じわり、と甘みが舌の上に広がる。
　普通ならなんてことのない飴玉の味――だが、この飴玉は私がこの手で変えたメニャーニャそのものである。その事実を認識するだけで、言い表しようのない背徳感が込み上げてくる――その背徳感の、なんと甘美なことか。

　メニャーニャの、魂の、味。
　私に魂を捧げた者の、生命の、味。
　いつまでも、永遠に、舐めまわしていたくなる、世界で最も愛おしい、味。

　だが、あまりにも危険な誘惑だ。
　今でさえ、ゆっくりと溶け始めているというのに。
　このまま私の口の中で転がしていれば、数分もしないうちに、メニャーニャという存在は世界から消えてしまう。
　命や魂そのものを、溶かしてしまっている――これではメニャーニャを死神として迎えるという契約も叶わない。

　このたった数分の時間を、強く噛みしめて。
　そして、もう二度とこんなことはするまいと、自らに言い聞かせなければならない。



　次は、耐えられるかどうか、わからないから。



******



「……まあ、酷い有様だナァ。聞こえてるカー？」
「…………」
「……キャンディが溶けた分だけ体力を消耗してるみたいダナ。まあ、予想されたことではあったが」
「……っ」
「――疲労困憊のところ悪いが、今のオマエ、隙だらけダゼ。もっと弄りたくなっちまったヨ」
「……ふ……」
「クク、なーに笑ってんだヨ。今夜は寝かさネェゾ？」
「……ええ……どうぞ……」



　――私をもっと、溶かしてください――



「――オーケー、アイシー。ラブ、ユー、メニャーニャ」

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「ラーブ、ユー、メニャーニャー♪」
「わかりましたから離れてくれませんかね……」
「なんだヨー、もっとかまえヨー。ていうか、すっかり慣れちまったナ、ユー……」
「これだけスキンシップ過剰だと耐性もつくというものです」
「左手で私のおでこを押しのけて、右手でレポート書いてやがるナ……」
「もうしばらくおとなしくしていてもらえませんかね。できるだけ早く仕上げるようにはしますので」
「終わったら相手してくれるのカー？」
「お望みでしたら」

「お望み、ネェ。たまにはユーから攻めてきてもいいんダゼー？」

「…………」
「……オイ、急にペン止めて、どうした？」
「……ふむ」
「何ダ、どうし――」



「ウワアァ！！？」



「……私を目の前にして、そんなに慌ててくれるなんて」
「いやチョット待て、いきなりすぎダロ！？」
「攻めてもいい、って言ったのはそっちでしょう――イリス様？」
「その敬称は皮肉ダナ！？　ウェイト、プリーズウェイト！！」
「待ちません。問答無用です」
「ちょ、やめっ、あっ――」











「…………………………………………」
「……すっかり弱々しくなられて」
「誰のせいだと思ってンダ……全然心の準備ができてなかったんだゾ……シット……」
「それはすいませんね」
「まるっきり気持ちの篭もってネェ声ダナ……」
「さあ？　というか、攻められる側になると全然駄目でしたね、イリスさん」
「チクショー……とんだ逆襲ジャネェカ……」
「おかげさまで。……なんだかんだで『やり方』も身に染み付いてしまったことですし」
「……ソウダナァ……仕込んだのは私ダ」
「……それに、ある意味これでお互い様というか――『対等』というものに、少しは近づけたんでしょうかね」
「……カモナ……今後はまったくもって油断デキネェナ……」
「とりあえず、そろそろ気を取り直してもらえませんかね」
「……ウェイトアモーメント……」