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タイトルどおり、pixivなどで書いたざくアクSSの保管場所です。 内容に差異はありませんが、ショートショートにまとめられていた話などは細かく分けられています。
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ローズマリー、エステル、メニャーニャ。
最終イベント時、デーリッチがコアに一人で飛び込んだ直後の、見送る立場となった三人の心情。

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「必ず……必ず帰って来いよっ……!!」

 デーリッチさんが白いコアに飛び込んだ後にそう呟いたローズマリーさんの表情は、『送り出す』という決断がとても苦渋に満ちていたものだったことをうかがわせた。デーリッチさんの意志を尊重したとはいえ、やはり無謀な賭けであり、彼女が帰って来れない可能性がどうしても頭をよぎってしまうのだろう。

 その横では、エステル先輩がひどくやるせなさそうな顔をしている。私やローズマリーさんも同じ思いを持っていることは間違いないにしても――この人が一番、シノブ先輩を助けたがっていた。それなのに、たった一人に希望を託して、何もできずに祈りながら待つしかないという状況には、少なくないショックがあっただろう。

 きっと私もひどい顔をしていたかもしれないけれど、

「……二人とも、大丈夫ですか?」

 そんな言葉をかけずにはいられなかった。



「……大丈夫……じゃ、ないな、多分。正直、すげえ、悔しい」

 エステル先輩が答えた。それはきっと本音で、本当なら叫び出したいかもしれないのを必死にこらえているように見えた。

「ここまで来て、目の前に……伸ばした手の先に、シノブがいるかもしれないのに……見守るしかないんだ。自分よりも小さな子供に、後を託して」

 声も、きつく握り締めた拳も、震えている。

「……デーリッチにはさ。私がシノブを助け出すのを、手伝ってもらうつもりでいたんだ。それが……手伝ってもらうどころか、あの子にすべてを賭けることに……背負わせることになってしまった」

 俯く姿は、懺悔しているようにも見える。

「……マリーの言うとおり。あの子は決して弱くなんかない。……けど、ここまで来て何もできない、自分の無力さが……ただただ、すげえ、悔しい……かな」

 自分を責めているようにも見える。だけど――そこまで一人で思いつめないで欲しい、と思った。今この場で無力なのは、私もそうだった。

「……エステル」

 ローズマリーさんが、宥めるように、先輩に声をかける。

「さっきはきついことを言ってしまったが……今のエステルの気持ちは、すごくよくわかるよ。というか、かつての自分を見ているみたいだ」

 先輩が顔を上げてローズマリーさんを見た。

「……異世界にデーリッチを助けに行った時のこと、覚えているかい?」

 それだけの言葉で、先輩ははっとしたような表情を見せ、それから苦笑い。

「覚えてるよ。忘れるわけがない。……そうか、あのときマリーに言った言葉、そのまんま今の私じゃん……」

 気になった。二人はそのとき、どういうやりとりをしたのだろうか。確か、私がハグレ王国に関わり始めるより前に起こった大事件だったと聞いた。
 窮地に陥ってデーリッチさんが無茶な転移を試みざるを得なくなり、その結果――この世界から消えてしまった。ローズマリーさんとエステル先輩の死に物狂いの捜索の結果、異世界に飛ばされていたデーリッチさんを無事に救出できたという、大まかな話なら聞いていたけれど。

「……何を話したんですか?」
「……うん、あの時はまだメニャーニャはいなかったよな」

 私に苦笑を見せつつ、先輩はローズマリーさんに説明を振った。

「……デーリッチを追いかけて、あちらの世界のてこてこ山を登っている最中のことだ。元の世界で捜し続けていた時と比べて、確実にデーリッチに近づいていたはずなのに……登れば登るほど、焦りの気持ちが私の中で強くなっていったんだ」

 話し、思い出しながら、ローズマリーさんは深呼吸をする。

「見かねたエステルに小休憩を勧められてね。どんどん焦りが膨らむのはどうしてだろうかって言ったら――」



『……近いと、言い訳が出来ないからじゃない?』

『手の届く位置にいるのに、手を伸ばせなかったとなると、遠くにいてどうしようもないってのより、悔しいもんなのよ、やっぱ』

『なんとかなりそうな分ね、なんとかしようと、焦るの』

『私だってそうなんだから、みんなそうでしょ?』



 ……ああ、なるほど。ものすごく納得してしまった。
 ローズマリーさんにとっては、かつての異世界の出来事。
 エステル先輩にとっては、今。
 ふたつの事象が、今まさに重なり合っているのだ。

 目の前の白いコア。その中に、間違いなくシノブ先輩がいる。
 それなのに私達には何も出来ない。手を伸ばせば触れることさえできるっていうのに、その先に進むことはできない。ただ一人進んでいった少女――デーリッチさんを信じて祈ることしか、私達にできることはない。

 けれども今の話を振り返ったおかげか、ローズマリーさんもエステル先輩も、幾分か落ち着いたようだった。その一方で、私は――

「……メニャーニャ? 浮かない顔になってんぞ?」

「え、ええっ?」

 唐突に先輩に指摘されて慌ててしまった――ああ、悔しい。こういうときの先輩は、大抵、私のことを見透かしてしまっている。

「……心配すんなよ。たとえこのコアの中にいるのがシノブじゃなくてあんただったとしても、私は全力で助けに行くからさ。メニャーニャだって、私にとっては大事な後輩なんだから」

 いつもなら言い終わらないうちに横隔膜を殴るなりしていただろうけれど、今この状況ではあまりにも無理だった。放たれた先輩の言葉はとても真摯で、私は顔を真っ赤にして俯くことしかできなかった。

「てか、多分あんたはあんた自身が思ってる以上に、周りから大事に思われてるよ。そこは自信持っていいって。協会のみんなだってそうじゃん?」

 協会のみんな――ひとりひとりの顔を思い出す。私に憧れてくれる人、私を慕ってくれる人、私を気遣ってくれる人。自己犠牲に走ろうとした私を直接引っ張ったのは先輩の手だったが、もう片方には協会みんなの思いが詰まった署名が握られていた。
 私を救ってくれたのは、エステル先輩だけじゃない。協会のみんなの思いを、先輩が背負って持ってきてくれたのだ。

「……まあ、あんたあの時さ、一時的な熱に浮かれてるだけだって憎まれ口叩いてたけど……よく考えたら、その熱を入れたというか、火をつけたのって……デーリッチなんだけどね」

「え?」

「それまでは、あんたを救いたいと思っていても、行動に出ることができなかったみたいなんだけど……デーリッチが喝を入れたのさ」



『君はメニャーニャちゃんを、雲の上の英雄だと思っているんでちか!? 手の届く仲間だと思っているんでちか!?』

『だったら、君だけじゃないんでち! きっと、みんな同じ想いだ! 仲間だと思っている!』

『変化を怖がって、最後のチャンスを見逃すんでちか!? その岩の中には生身の人間がいるんでちよ!?』

『……メニャーニャちゃんは、もう、バランスが崩れている。辛いから、一人で進むなんて、とっても悲しいことでち』

『一人ぼっちの英雄に、そうじゃないよって届けるには、君達の想いが絶対に必要でち』

『メニャーニャちゃんが頑張ってきたことを、無駄にしないでください』

『みんな、仲間のはずでち。そう感じているなら――』

『嘆願書は三十分で完成する』



「実際にはそれで燃え上がっちゃって、二十分もあれば十分だって言って、本当に二十分で出来上がっちゃったんだけどね――って――おいちょっと、メニャーニャ!?」

「え――」

 急に先輩が慌てたので何事だろうと思った瞬間、目と、頬が、少し湿っぽいことに気がついた。なぜか、涙が流れていたらしい。私自身は先輩が反応するまでまったく気づかなかったけれど。

「……すいません。大丈夫です。たぶん……感極まっちゃって」

 それこそ自分でも知らないうちに、先輩の話を聞いていたら、いつの間にか。

「……あー、なんだ。たぶんさ。協会員のみんながあんたのことを大事に思ってたのは間違いないんだけどさ……本当、それに負けないくらい、デーリッチもあんたのことを救いたいと、そう思ってたと思う」

 ええ、わかります。デーリッチさん、本当にありがとうございます――もし目の前にデーリッチさん本人がいたら、私らしくもなく素直にそう言ってしまいそうなくらい、感極まっていた。
 そしてここで、あることに気がつく。普段の私だったらただの結果論だと一蹴してしまいそうなことではあるけれど。

「……先輩たちがもし異世界からデーリッチさんを救出できなかったなら、私が救われることも、なかったのかもしれませんね……」

「……ん。そうだな……でもそこは言い方変えようぜ。私達がデーリッチを救うことができたから、続けて、あんたを救うための道が繋がった、とも言える」

 ――道が、繋がったこと。
 そしてそれは、まだそこで終わりじゃなかったこと。

「……さらに言うとさ。あんたが救われたことで、今また、シノブを救うための道が繋がろうとしているんだ。救出の実行役はデーリッチだけどさ……方法を、道を示してくれたのは、メニャーニャ、あんたじゃん?」

 ――その道はあまりにも無謀で、私と先輩以外の誰かの命さえも巻き込む危険な賭けだったけど。その一方で、エステル先輩や協会のみんなやデーリッチさんに救われた私が、他の誰かを、もうひとりの先輩を救い出したいと強く願って、繋いだ道だった。

「……そう、ですね。どこかが少しでも欠けていたら、この場所にたどり着くこともできなかったかもしれません」

「あ、また『できなかったかも』だ。……まあ、でも今この場で最初に荒れてたの、私だったしな」

「……落ち着いたかい?」

「うん、すごく」

 ローズマリーさんが声をかけ、エステル先輩がさっぱりしたような顔で答えた。かと思うと唐突に、先輩はコアの真正面でどーんとあぐらをかいてみせた。

「ちょ、先輩、みっともないですよ!?」

「いやいや、私、もう腹くくったかんな! デーリッチがうまくやってくれることを信じて、どーんと待つさっ!」

 横でローズマリーさんがやれやれといった風に苦笑いしている。ああもう、ほんと恥ずかしい先輩だ。けれど、こんなだからこそ頼もしく思えるのかもしれない。



 デーリッチさん。
 そして、シノブ先輩。
 私達は、ちゃんと信じて待っていますから。

 繋いだ道の、さらにその先を、どうか私達に見せてくださいますように。
 よろしくお願いしますよ?
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ざくざくアクターズというフリーゲームの二次創作をやっています。ネタが思いつくかどうかは気まぐれなので不定期更新。
主な活動場所はpixivで、この場所はあくまでも保管庫として活用しています。
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