タイトルどおり、pixivなどで書いたざくアクSSの保管場所です。
内容に差異はありませんが、ショートショートにまとめられていた話などは細かく分けられています。
+ + + + + + + + + +
オーバーヒートによる強制停止。
緊急メンテナンス。
作動する自動冷却装置。
再起動を告げる電子音。
ゆっくりとうねる駆動音。
「――マリオンさん、マリオンさん。聞こえますか? 動けますか?」
タイミングを見計らって、呼びかける。
「――う、うう……ここは……あ、メニャーニャ……」
真正面で表情を覗き込んでいる私の顔を認識すると、途端に申し訳なさそうになった。
「またやってしまったのか……。いつも本当に済まない、メニャーニャ」
「まったくですよ。なかなか慣れないんですねえ」
縮こまるマリオンさんに対し、少し不機嫌っぽい顔をして私は答える。マリオンさんのオーバーヒートも、もう何度目だか忘れてしまった。さすがに毎日というペースではないにしても、頻度はそこそこに多い。
「慣れたいとは本当に思っているのだ。悪いことを言われているわけではない、むしろ好意を持った言葉をかけられている、それはわかっているのに……」
「ああ、いや、あまり落ち込みすぎないでください。確かに、慣れてくれれば私の苦労も減るわけですが……性格からくる問題というのは、なかなか解決が難しいものです」
人間とほとんど変わりのない、不器用で真っ直ぐで、そしてとても照れ屋なアンドロイド。その性格自体はかわいらしく、本人が王国に溶け込もうとする努力とも相まって、今では広く好かれる存在になっている。
だけど、照れが行き過ぎて頻繁にオーバーヒートを起こすのは、なかなかに深刻な問題で、だからこそ本人は必死に解決したがっている。かといって、褒められても照れないように性格を矯正するというか慣らしていくのは、一朝一夕でできることでもない。
――実のところ、マリオンさんの照れ屋という性格は、私にとってあまり他人事でもない。反応が違うだけで、褒め言葉を素直に受け取れない性質持ちであるという点が共通しているのだ。
しかもマリオンさんは直したい、慣れたいと強く思っている一方で、私はきっと一生この性格を通していくのかもしれないという気がしていて、余計に質が悪い。
「……だからまあ、苦労するとは言いましたけど、迷惑だとは思いませんから。マリオンさんがいつかきちんと慣れるまで、ちゃんと付き合いますから」
「……そう言ってくれると、すごくありがたい。メニャーニャは優しいな」
「う……」
「あ、いや、へ、変なことを言ったか?」
――マリオンさんの場合、褒め言葉は素直に受け取れないけれど、逆に、贈る時はものすごく素直だ。容姿の愛らしさもあってか、そのストレートさは、私がアンドロイドだったらあっさりオーバーヒートに到達するくらい、恥ずかしくなってしまうものだった。
「んんっ。――に、しても。恥ずかしくてオーバーヒートなんて……最初の邂逅において激闘を繰り広げた時からは想像もできませんでしたよ?」
咳払いをして、やや強引に話題を変えた。マリオンさんは特に気にした様子はない。
「そうなのか?」
「ええ。戦いの中であれだけの大火力を駆使するのなら、普通そっちの方がオーバーヒートの原因になりそうなものですが。マリオンさんのストレートで何回も気絶して、何回パンドラゲートで叩き起こされたことか」
「う、す、すまない……というか、メニャーニャは決して丈夫な体というわけではないのに、今思えばマリオンはひどいことをしてしまったな……」
「あ……ああ、すいません、つい皮肉を。……あの時はハグレ王国側もマリオンさんも、互いの信念をかけて、死力を尽くして戦ったわけですから。その後は分かり合えて、マリオンさんも今こうしてハグレ王国に居るわけですから、気に病むことはありませんよ」
私としてはフォローをしたつもりだったが、マリオンさんの表情が曇りを見せた。
「……どうか、しました?」
「……信念か。あの時マリオンは、マリオン自身の判断に基づいて、ハグレ王国に審判を下そうとしたが……」
顔が少し俯いている。何かを後悔しているようにも見えた。
「……その後に聞いた話を振り返ると、もしハグレ王国がマリオンを止めてくれていなかったら――」
「マリオンは星の守護者ではなく、天界の災厄となってしまっていたかもしれない」
――そもそもマリオンさんが私達と出会うことになったのは、かつて天界を暴れまわった禍神の一人、御影星の陰謀によるものだった。
禍神はただ混沌を望み、天界の一部を次元の塔へと召喚して荒廃させ、さらに他の神々の争いを煽るなど、多数の暗躍をしていた。
私達が本拠地に乗り込んだ時、御影星は儀式を執り行っており、直接顔を合わせた段階において『術は成就する』というようなことを言い放った。結局、御影星は私達に敗れた後、儀式の詳細を語ることなく、自分自身を封印してしまった。
しかし程無くして、その詳細は私達の想像を超えるものであったことが明らかとなる。御影星の儀式により宇宙が召喚され、そこからマリオンさんの乗る巨大宇宙戦艦が天界へと迫ってきたのだ。
止む無く私達は戦艦を迎撃し、続いて船長であるマリオンさんとも対決するに至った。当時の彼女は、戦艦を撃破したハグレ王国こそが自分を天界に引っ張り込んだ『敵』であると判断し、話を聞くことさえ頑として拒否したのだ。
「……結果としては、その御影星とやらがマリオンを利用して、災厄をもたらそうとしたのだろう? お前達が止めてくれなければ、まんまとその思惑に嵌ってしまうところだった。……星の守護者としては、あまりにも屈辱的だ」
――ああ、やめてください。そんな、自分で自分を傷つけるような顔をするのは。
自然と、手が伸びて。
私は、マリオンさんの髪を、ゆっくりと撫でていた。
「……メニャーニャ?」
「大丈夫ですよ。マリオンさんは結果的に、天界の災厄にはならなかった。ハグレ王国の一員になって、たくさんの人に好かれている。その現実を、大事にしていきましょうよ」
――ああ、やっぱりマリオンさんの存在は、他人事のように思えない。
不器用で、真っ直ぐで、とても照れ屋で、そして優しい。守護者であるということ、守りたいという信念――組み込まれたプログラムからくるものではない、本物の気持ちを持っている。
同じ気持ちを、きっと私も持っている。
「……解釈によっては」
マリオンさんを撫でながら、語る。
「マリオンさんも、ハグレ王国に救われた、と言えるのかもしれませんね」
「……そうなのだろうか」
「そうですよ。天界の災厄となりかけたところを、王国が阻止したのですから。……それに、ハグレ王国に救われたのは、私もなんですよ」
シノブ先輩の救出作戦の時、ローズマリーさんやエステル先輩と語った話を思い出す。
二人が、異世界に飛ばされたデーリッチさんを救った。
デーリッチさんが召喚士協会のみんなの心に火をつけて、エステル先輩がその想いを握り締めて私の手を引き、救い上げてくれた。
白いコアの中でゆっくりと死に向かうシノブ先輩を助けたくて、私がその方法を提示し、デーリッチさんがその方法に乗って命を賭けて、見事、先輩を救い出してくれた。
誰かが救われることで、道が繋がっていき、また別の誰かが救われ、さらに道が繋がる。連続していって、時に意外なところに繋がる――今度はマリオンさんを救ってみせたのだ。
「……不思議だ。本当にそんな気がしてきた」
「そういうことにしておきましょうよ。あなたは災厄なんかじゃない、王国の仲間です」
「……仲間……」
マリオンさんは呟きの後、少し考える様子を見せ、それから私を真っ直ぐ見つめてきた。
「……なんですか?」
「……仲間という響きも、悪くはないけれど」
「マリオンは、今、話を聞かせてくれたメニャーニャと……友達になりたいぞ」
――友達。
その二文字を聞いた私は、瞬時に顔を赤くしてしまった。
でも、そういえば。マリオンさんはデーリッチさんと話をしたことがきっかけで、王国内で友達を増やしたいと頑張っている最中だった。それを思い出すと、瞬間沸騰した熱はすぐ、穏やかな温かみに変わっていった。
「……ええ。私でよければ、喜んで」
――先輩達相手だったら、こんなことは絶対に素直に言えるはずないけれど。
マリオンさんに対して、私は素直な微笑みとともに、申し出を受け入れた。
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ざくざくアクターズというフリーゲームの二次創作をやっています。ネタが思いつくかどうかは気まぐれなので不定期更新。
主な活動場所はpixivで、この場所はあくまでも保管庫として活用しています。
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