タイトルどおり、pixivなどで書いたざくアクSSの保管場所です。
内容に差異はありませんが、ショートショートにまとめられていた話などは細かく分けられています。
+ + + + + + + + + +
シノブが行ってしまった。
この世界から、出て行ってしまった。
愛していたのに。
傍にいてほしかったのに。
私の手から、するりと抜けていってしまった。
力を私に委任して、脆弱な存在になっていたとしても。
この世界の核を成しているのは、あくまでもシノブだった。
そのシノブが居なくなった。
この世界を出て行ってしまった。
もはや私には何も残っていない。
愛した娘も、愛した娘のために存在するという意義も、そして私自身の存在さえも、残らない。
何も残らない。
――誰のせい?
――私がすべてを失うのは、果たして誰のせいなのだ?
決まっている。
わかりきっている。
この世界からシノブを連れ出した、あの娘だ。
ちゃちな王冠を被り、ひとりで乗り込んできたあの娘だ。
この世界の私以外の存在を敵にして、私を孤独に陥れた、あの娘だ。
あの娘のせいで、私はすべてを失ったのだ。
――あまりにも――
――あまりにも、理不尽ではないか!!
逃がすものか。
生かして帰すものか。
シノブがいない。
シノブを守っていたエステルもメニャーニャも、いない。
今、あの娘はたったひとりで、この世界に取り残されている。
逃がしはしない。
私だけがすべてを失うなど、我慢がならない。
それだけは絶対に許せない。
あの娘を――デーリッチという存在を、道連れにするのだ!!
「来たでちかっ……!」
グ、グオオオッ……デーリッチィ……!!
「おや、辛そう。もしかして、身体の再生が間に合ってないんでちか? よく、来てくれたでちね?」
――ふ、ふざけた……ふざけた答えだ。
シノブという光が消えた今、影である私も、居場所がなくなった。
見ろ。もはや、夜と区別がつかないこの身体は、絵の具が滲むように、暗闇に溶けていく……。
夜が明ける頃には、ここにはもう、何にもなくなっているのだろうな。
「それでも、戦うんでちか?」
もはや、この戦いには何の意味も無い。ただあるのは……私の復讐心――!
私の心を満たすためだけに――
おまえはここでしねっ!!
私が振るった爪にデーリッチは切り刻まれ、吹き飛ばされる。
あろうことか、抵抗する様子すら見せず、あっさりと地面に転がる。
これほどまでに復讐心を燃やしているというのに。
なんとも、あまりにもあっけない印象だった。
――少しも満たされなかった。
――怒りが、燃え上がった。
……なんだそれは。あまりにも、あっけないじゃないか。
何が立っているのかと思ったら。ただのガキではないか……。
あんなに巨大で、エステルやメニャーニャをたきつけて、シノブまでも説得し、私以外のすべてを私の敵にした奴が……。
私をここまで追い詰めたガキは、一人ではこんなに脆かったというわけか?
あんなに巨大だった奴が……。
――くだらんっ!!
だったら死ねっ!!
戦えぬなら、せめて、私を満足させるように!
臓物と血を撒き散らして!! 真っ赤になって!!
この世界のバラとなって死ねっ!!
――爪を、振り下ろした。
倒れている小娘を、渾身の力で引き裂こうとした。
しかし、突如、光が覆った。
光に遮られ、小娘の姿を見失い、爪を止めてしまった。
「ふいー! 今のは、やばかったー!」
ボロボロだったはずの小娘が、何事もなかったかのように立ち上がった。
私が確かに切り刻んだはずの爪痕は、小娘のどこにも見られなかった。
「なかなか上手くいかないものでちねぇ。でも、もう大体分かったでちよ」
――お前、今、何をした? 何故、歩ける?
「あー、君の言うとおりでち。デーリッチは一人では脆い。ただの、ガキなのかもしれん――だから、一人では戦わんよ」
――なにっ……?
「結論から言うと――今のが君の最後の勝機だった。あの一撃で倒せなかった以上、君にはもう、まったく勝ち目がないでち」
まだ、はったりを続けるか……。時間稼ぎなら――
「時間は、もう稼ぐ必要がない。しかし、君のために時間を稼いであげよう」
「正直なところ、君はいつでも倒せるのだけど、それではデーリッチが『つまらなく』感じるのでね」
――キサマっ……! 御託はいいっ!! ならば、私の闘争心を満たしてみせろっ!!
「はいはい、それじゃあラスボス交代」
「どちらが挑戦者なのか――」
「その身をもって知るといいでちっ!!」
なんだこれは。
なんだこれは。
なんだこれは。
なんだこれは。
なんだこれは。
なんだこれは。
最初は、エステルとメニャーニャのイメージを呼び戻したのかと思った。
しかしその直後、小娘と最も近しい存在が呼び出された。
それだけならばまだ、無理矢理にでも押し返すことができただろう。
しかしさらにその直後、いきなり人数が倍になった。
私がひとつ行動する間に、相手は何度も何度も動く。
追いかけることができない。
攻撃を叩き込まれ、防壁を張られ、傷を治され――それらの行動をまとめて済まされてしまう。
その上さらに人数が増える。
増える。
増える。
ふえるふえるふえるふえるふえるふえるふえるふえるふえるふえるふえるふえる――
――これが決戦だと言うのか……!?
こんなものは、ただの数の暴力ではないかっ!!
「おや、不満があるみたいでちね。だったら、そっちも増やせばいいんでち」
――増やせばいい――
出来ない。
出来るはずがない。
既に、すべてを失った私に。
そんなことが出来るはずがない。
そればかりか、最後に残った目の前の小娘への復讐心さえも、たった今失われようとしている。
小娘――否。
次々と、自らを支えてくれる者をイメージし、具現化する、その姿。
目の前にあるのは、ひとつの国。
その中央に立つは、王。
もはや、私でもない、シノブでもない。
デーリッチこそが、今、世界の中心であるのだと。
認めざるを得ない。
認めるしかない。
ひれ伏すしかない。
勝てるわけがない――
目の前に広がる『国』の姿を見て、既に心はへし折られている。
少し遅れて、この黒い身体に、無慈悲な一斉攻撃を叩き込まれた。
――分かった……もう降参だ……。
君が王というのは本当なのだな……この状況を見れば、認めるしかない……。
もう立っているのがやっとだ。今にも倒れそうなんだ。
お願いだ、止めをさしてくれ……。
「どうして立っているんでちかね?」
「一切の希望がなければ、とっくに倒れているはずでち。何故に、まだ立っていられるんでちか?」
――私を見下しさえした、王の風格を漂わせる眼差しから一転して。
今は、ひどく優しい目で、デーリッチが私を見つめている。
憐れまれているのだと思った。
ちっぽけな尊厳さえも奪おうと言うのか――力を振り絞って、吠えた。
けれども、デーリッチの目は澄んでいた。
ボロボロの私を、讃えさえした。
そして――
「君は待っているんでち。君の大事な人が助けに来てくれるのを」
「デーリッチと同じように、君の傍に現れてくれることを」
「――体力が尽きたのに、まだ立っているのは……もう、誰かが支えてくれてるんじゃないでちか?」
「君に残された1という数字が、果たして誰のものなのか。デーリッチにはもう見えるでちよ」
「――もっと近くにいる君が、見えないわけないでちよね?」
ああ――そうか……
このぬくもりは、この鼓動は……私が一番よく知るあいつの……
ありがとう、デーリッチ。
君は、この気持ちを伝えたかったんだな……。
すべてを失った、と思った。
一番大事なものさえも、失ってしまった、と思った。
――失ってなど、いなかった。
私の中に、たったひとつだけ、残っていたものがあった。
復讐心でもない。
孤独な尊厳でもない。
私という世界の中心を成すもの――
待たせたね、シノブ。
行こうか、シノブ。
父さんはね、今、とっても嬉しいんだ。
こんな気持ちは――
君が生まれてきてくれた時以来だよ――
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ざくざくアクターズというフリーゲームの二次創作をやっています。ネタが思いつくかどうかは気まぐれなので不定期更新。
主な活動場所はpixivで、この場所はあくまでも保管庫として活用しています。
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