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タイトルどおり、pixivなどで書いたざくアクSSの保管場所です。 内容に差異はありませんが、ショートショートにまとめられていた話などは細かく分けられています。
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イリスと福ちゃん、さらにクラマとハピコ。
月夜に笑う禍者達の続きになります。

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「おい、そこのエセ異人訛り女」
「ハン?」

 昼飯を食い終わってこれから出かけようかという時に、やたらと剣呑な声をかけられた。振り向くと、新参の天狗ボーイが敵意丸出しの顔でこちらを睨んでいる。

「何の用デース? 私はこれからめいかいQの司会の仕事に行かなきゃいけないんデスガー?」
「そんなの知ったことか。お前、悪魔のくせに、最近福の神様と仲良さそうにしてるじゃねえか。さっきも一緒に昼飯食ってたし」
「神も悪魔も暮らすハグレ王国で、それの何が悪いんデース?」
「お前は腹黒い噂ばっかり聞くから一緒にしておけねえんだよっ! 福の神様を懐柔しようとしてんじゃねえだろうなっ!?」

 怒りを隠そうともせず、天狗ボーイは私に詰め寄ってくる。

「ユーが思うようなことは、今のところ何もないデスヨー?」
「今のところは、だと!? やっぱり何か企んでんじゃねえか!」
「別に、先のことは保証できないだけデスヨー。……何だ、やり合いたいなら受けて立つゾ?」



「おい、何をやってるんだ! 喧嘩はやめてくれよ!」



「あ、ローズマリーさん……!」
「チェ、いいところだったのにナー」

 緑色の衣服に身を包んだ王国参謀に向かって、冗談めかして笑う一方。天狗ボーイは態度を少し大人しくさせたものの、私への敵意は剥き出しのままだった。
 参謀サンから私と天狗ボーイそれぞれへの事情聴取。私はありのままに答えたが、天狗ボーイはさも私が悪者であるかのような説明をしていた。――性格面では間違っちゃいないんだが、な。

「……クラマ、ちょっと感情的過ぎるんじゃないかな。本当にそう思うなら、まずイリスよりも福ちゃんに確かめるべきだと思う」
「もう懐柔されてて手遅れだったらどうするんですか。根本の原因であるコイツをどうにかしたほうが早いっすよ」



「――青い考えだな、ボーイ。そりゃオマエ、福の神を信用してないってことになるゾ?」



「お前は黙って――」
「いや、私もイリスの言葉に同意するよ。……頭を冷やせ、クラマ」

 責められている私よりも、仲裁に入った参謀サンのほうが、相手を凍りつかせるような目で、天狗ボーイを睨む。

「……ちくしょうっ!!」

 まったく納得がいかない様子で、不機嫌を隠さないまま天狗ボーイが走り去っていく。それを見送ってからしばらくして、参謀サンが溜息をついた。

「すまないね、嫌な思いをさせたかい?」
「オイオイ、なーんでオマエが謝るんだヨー。ま、私はやり合ってもよかったんだがナ?」
「まあ喧嘩は困るんだが、途中から話は聞こえていてね。今回に関してはイリスに非があるようには思えないから」
「ああ、まったくダ。あ、言っとくが福の神懐柔ってのは本当にないからナ?」

「……正直言って意外ではあるんだが。君が福ちゃんと最近仲がいいというのは」
「神と悪魔だからナァ。けど、それでも仲良くできるのがハグレ王国のいいところ、ダロ?」
「君は初対面の時に地上侵略とか言ったり、実際に搦め手で乗っ取りをかけたりしてきてるから、警戒せざるを得ないんだよ……」

 苦笑いしているが、それでもさっきの天狗ボーイと比べて、参謀サンが私に向ける口調は幾分か柔らかかった。

「しっかし……クイズ大会やる気分じゃなくなっちまったゼ」
「あ、これから開催するところだったのかい? それは……クラマには厳しく言っておかないといけないな」
「ノー。たぶんありゃ、外野が言ったところで不満溜め込んで、また突っかかってくるゼ?」
「そうかな? けど、また今みたいなことが起きても困るし……」
「なるようにしかならねーダロ、たぶん。ま、さすがにこの件についてはこっちはできるだけおとなしくするヨ。しっかり覚えといてクレ、参謀サン」

 あえて念押しをする。参謀サンは引き続き苦笑いのまま、わかったよ、と答えた。



 さて、あの天狗ボーイは次にどういう風に私に絡んでくるか。
 このまま音沙汰がないはずがないだろうが、どうなることやらネー?





******





 納得がいかず、けれどこれといった反論も出来ず。
 逃げるようにして拠点を飛び出し、そのまま誰もついてこれない空中へと飛び上がった。
 そこから改めて拠点の建物――ハグレ王国を見下ろす。

 種族を問わず大人数が住み着いているためか、古い遺跡であるにしては随分と綺麗な様子を保っている。それは単に掃除が行き届いていたり、より住み良くするために補修工事をしたりした結果なのだろう。
 けれど、種族を問わないということは主義主張もばらばらで、自分のようにどうしても納得がいかないものを抱えている者もいるはずだ。特に今の自分では信じられそうにもないくらい奇跡的なバランスでもって、この王国はまとまっている。

 ――中でも、あのイリスという悪魔はとびきり異質だと思う。
 王国に属してはいるが、今でもたびたび侵略の意思を覗かせ、実際に何度か実行に移しているらしい。いずれも失敗に終わっているそうだが、侵略しようとした事実は変わらないのに、何故追い出されずにいるのか。
 そしてあろうことか、自分にとって主とも言える存在である福の神様と、このところやけに距離を詰めている様子だ。どうにも危険な気がしてならない。
 今のところ何もないのだから責めるのはおかしい、とはローズマリーさんの弁だが、何かが起こってからでは遅いのではないだろうか――



「やっほー、クラマっちー。なんか喧嘩したんだってー?」



 ……誰もついてこれないという言葉、訂正。
 そういえば一人、俺以外にも飛べる奴がいた。

「何だ、詐欺師」
「うわ、第一声がそれってひっでえなー。しかも私、ハグレ王国に来てからは詐欺なんかしてないぜー?」
「どうだか。福の神様の威光を借りた、せこい商売やってんじゃねえか」
「いや、せこくねえし。福ちゃん本人公認だし」

 確か、ハピコとか言ったか。こいつにもいい印象を抱いていなかった。金に汚いって評判をよく聞く。

「ってかさー、それを言うならゴースト予報局ってのもどうなのさ。あれのグッズってあんたとアルっちのイケメン人気で女釣ってんじゃん」
「うっせ、お前と一緒にすんな」
「んもー、さっきからマジつれないなー。……そんなに福ちゃんのことどうこうされるのが嫌なの?」

 んぐっ、と変な息の吞み方をしてしまった。
 それから反論をするより早く、ハピコがにやぁっと笑う。

「んーむ、てっきりポッコちゃんが本命なのかと思ってたけど……ねぇ」
「それは違うっつってんだろ! ロリコンネタいい加減やめろよ!」
「いやいや、まぁまぁ……てかさ、こんなとこでイライラしてないで、福ちゃんに直接話聞きにいったらいいじゃん。それをしないでただただ周りに八つ当たりしてるだけって、ホント、みっともねーぜ?」

 ――畜生。
 へらへらしてるくせに、ローズマリーさんと同じこと言いやがって。

「……わかったようなこと言ってんじゃねーよ」
「わかるわけないじゃん。ただ、あんたがこのままイライラして周りに当り散らし続けてると、王国の雰囲気が悪くなる。だからさっさとどうにかしろってだけ。私だってなんだかんだで王国には愛着あるんだから、あんまりにも雰囲気乱されるとさ、そりゃ怒るぜ?」

 ――こんな不真面目そうな奴にさえ、抗えば抗うほど、自分が見苦しく思えてくる。さすがにそれが判らないほど馬鹿なつもりもなかった。

「……ちくしょう。行きゃあいいんだろ、行きゃあ!」
「さっさとしなよー。……まったく、世話の焼ける奴ー」

 心底呆れたようなハピコの声を背に、俺は福の神様を探しに地上へと降りた。





******





「むぎゅう……」

 ――渾身のゴールデンハンマーの洗礼を浴びせられた。

「話は聞きましたよ? イリスさんに大きく迷惑をかけたそうですね?」
「す、すいません……」

 ――相当にお怒りのご様子。でなきゃ、こんなことしないだろう……畜生、風祭神社の時と同じだ。

「まあ、ちょっとしたきっかけがあって、イリスさんとは仲良くさせてもらっていますが。クラマ君が思うようなことはありませんし、私だって彼女を警戒していないわけではないのですよ?」
「……警戒、で済ませていいんですか。聞けば、何度か王国を乗っ取ろうとしたそうじゃないですか、あの女」
「ですが、今のところすべて失敗に終わっていますし、今後も何かあれば王国側で対策を取るでしょうから、そこまで過剰に心配することもありませんよ」
「……楽観的過ぎませんか?」
「逆にあなたが気を張りすぎなのです。時にはあえて隙を作ることも大事ですよ?」



「――あえてッツーカ、オマエの場合は意図せずして私に見つかった流れだったダロー?」



「なっ、テメエ!」
「クラマ君?」

 んぐっ……。

「……こんにちは、イリスさん」
「ハロー♪ 出来の悪い部下を持つと大変ダナ、福の神サマ?」
「そうですね、今はとても実感していると言わざるを得ません」

 んぐぐぐっ……!

「ですが、彼は彼でいいところもあるのですよ? 実力はありますから、仕事は有能ですし」
「へえ、ボーイ、ちゃんと評価されてるジャナイカ」

 悪魔は福の神様に相槌を打ちつつこっちを見て笑うが、その笑顔が気に食わない。

「……福の神様、やっぱり弱みでも握られてるんじゃないですか? 意図せずしてこの悪魔に見つかったって、何のことですか」
「少し前の真夜中に、コイツ、福の神のクセに、思い詰めたような辛気臭い顔して夜風に当たってたんだヨ」
「テメエには聞いてな……何ですって?」



「……まだ禍神だったころに御影星と争った、その時の夢を見たのよ」



「え……」
「ボーイ、オマエだってもう知ってんだろ? コイツが元・禍神だって。――それでオマエはコイツのことを嫌いになったか?」

「……いや……そんなことは、ない。御影星と対峙した時……この人からすれば二度目か。その時に、言った」



(――貴女はは悪い人には見えません。ただ、ちょっと人使いが荒いだけです――)



 ……同時に、自分が言ったもう一つの言葉を思い出した。



(――親父が言ってました。楽な意見には乗るなって――)

(――だから俺は自分の目で見たものを信じることに決めてるんです――)



「……くそったれ。よりによってテメエの言葉で思い出すなんて」
「相変わらず口が悪いナ。だが、さっきよりはずっとマシな顔になった」

 ふふん、と悪魔が鼻を鳴らして笑う。その余裕の態度に向かって、ストレートに言葉をぶつける。

「お前は何を考えてる。なんで福の神様と仲良くなんてしてるんだ?」

 今度はクククと喉を鳴らして悪魔が笑う。

「――ソイツが元・禍神であるがゆえにナ、私達悪魔と似たような力を感じたからサ。そこから来るシンパシーもあるし、今の私は福の神としてのコイツのこともそれなりに評価してるつもりだゾ?」

「評価、か。裏があったりはしないだろうな?」
「さーナ。そこまで教えてやる気はネーヨ。今の言葉を福の神が、そしてオマエがどう受け取るか、それ次第だヨ」

 しばらく沈黙が続く。
 俺と悪魔が睨み合い、傍らで福の神様が見守る構図になっている。



「……やっぱりまだ、お前のことは信用できねえな」

 それが、今の俺の結論。その言葉に対しても、悪魔は余裕の笑みを崩さない。



「それでいいんじゃネーノ。言葉としては同じでも、さっきの八つ当たりじみたものよりは、ずっと面白いネ」

「福の神様に何かしたら承知しねえぞ。……けど、それまでは見逃してやる」

「そこに落ち着くのカヨ。ま、地味ーに警戒レベルが下がってるだけ、良しとしますカネェ?」

 ――確かに『何かがあってからじゃ遅い』から『何かしたら許さない』に引き下げてはいるが。監視の目を光らせることに変わりはない。

「……まあ、クラマ君としても、さっきよりは地に足の着いた物の見方ですわね。及第点と致しましょうか」
「なんかコイツに地に足が着くってのも妙な物言いだナァ、オイ」
「確かに俺は空中戦のほうが得意だが、茶々入れんじゃねーよ」

「ともかく、仲直りしてくれてお姉さんは嬉しいですわ♪」

 と、福の神様が話に区切りをつける意味でも、笑顔でそう言った――直後。



「お姉さんってトシでもネェダロ、何年生きてんだオマエ」



 ――ぴしっ。



「お、おほほほ……イリスさん、今なんと?」

「何年生きてんだババァ」

「直球っ!? いくらなんでもババァはあんまりではありませんこと!?」

「事実を言って何が悪いんだ? アァ?」

「ゆ、許せませんわ!! 表に出なさい! あ、ローズマリーさんに許可取らないと!!」

「やンのかコラ? 受けて立つゾ?」

 唐突に始まった喧嘩。いきなり挑発を始めた悪魔、瞬間沸騰した福の神様。
 急展開に戸惑っている俺に、一瞬、悪魔の顔が向く。



 ――オマエんとこの福の神サマがどれほどのモンか。

 ――あるいは私の力がいかほどか。

 ――とくと目に焼きつけとくがいいさ、青二才の天狗ボーイ。



 何も言っていないのに、そう言われた気がして。
 お前こそ、福の神様を怒らせたことを後悔しやがれ、と毒づいてやった。





******





「えええええ!? うえええええええ!? イリス姐さああああああああん!!?」

 ――げっふ。ウルセエ。チクショウ、立てネエ。

「何でお前がそんなに悲鳴上げてやがるんだよ……」
「だって私、この勝負絶対イリス姐さんが勝つほうに賭けてたってのにー!?」

 ――マア、私も絶対の自信を持って勝負したんだけどナァ。

「ふう……本当に運が良かったですが、やりすぎてしまいましたわね。クラマ君、イリスさんにリゲインポーションを飲ませてあげてちょうだい」
「了解っす」

 ――んぐっ。グエ、マッズイ、ニッゲエ。

「……くあー。タスカッタ」

 なんとか体を起こせるまでに回復する。が、まだ全身がイテェ。
 福の神サマに何度かヒールをかけてもらい、ようやく落ち着いた。

「……ハー。改めて参ッタ」
「ねえイリス姐さん、今の勝負本当にガチなんですか!? 八百長してません!?」
「オイコラ鳥人間。目の前に対戦相手がいるのに八百長とか口走ってんじゃネーヨ」
「でもでもそんなこと言ったって……姐さん、福ちゃんに撃ったの、とっておきの必殺技でしょ?」

「あー、そうだヨ。とっておきの必殺技を、全力で撃ったサ――まさか、耐え切られるとは思わなかったケドナ」

 で、もともとの技の反動に加えて、完全に予想外の展開だったせいで、大きすぎる隙を晒してしまったところに――渾身のゴールデンハンマーをぶち込まれて、ジ・エンドってわけだ。

「へっ、うちのボスをガチで怒らせた天罰だ」
「いえ、そうは言っても……イリスさん、本当に紙一重でしたわ」

 ヘロヘロの私を見下ろして、自分のことのように自慢げな天狗ボーイに対して、福の神は私を讃えるような微笑みを向けている。

「……運が良かったな、オマエ」

 さすがに運をつかさどる福の神なだけのことはある、と心から思う。
 私のプライドオブハーデス、いかなるものも凍りつかせる氷の力――しかし凍りつくことなく。その隙を縫って魂を手繰ろうとした私の手をも振り払い。
 福の神サマは私の必殺技を真正面から受けて、なおかつ生き残ってみせた。

「自分でもそう思いますわ。おそらく十回戦えば九回はあなたが勝つでしょう」
「ハッ、そう言いながら十分の一のアタリを何度も何度も引きやがるのがオマエダロ?」
「……ふふっ」
「……ク、ククッ……」



「……姐さん、負けたのにすげえ楽しそうに笑ってんなぁ……」
「……やっぱ、ああいうのを見ると、本当にっつうか、真面目に仲がいいんだと認めざるを得ねえな……」
「んー? クラマっち、認める気になったんだ?」
「……まあな。まだあの悪魔のほうに気を許したわけじゃないが」
「ま、すぐにとはいかないかー。でも進歩したじゃん♪」
「そのにひひ笑いやめろ!」
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ざくざくアクターズというフリーゲームの二次創作をやっています。ネタが思いつくかどうかは気まぐれなので不定期更新。
主な活動場所はpixivで、この場所はあくまでも保管庫として活用しています。
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